現場を持つ会社では、1件の案件の情報が複数の場所に分かれて存在します。依頼はLINE、写真はスマホ、日程は手帳、報告は電話。どれも仕事は回っているのに、工事の前日に「あの写真どこだっけ」が起きます。この記事では、店舗設備の入替・修繕工事を手がける企業と描いた業務自動化の構想図を、社名を伏せて公開します。まだ実装前の構想段階です。だからこそ、どこで迷い、何を決めたかまで書けます。

なぜ、ツール選定より先に「構想図」を描くのか
結論から言うと、情報の流れを1枚にしないと、どのツールが要るか決まらないからです。
AI導入の相談でよくあるのは、「とりあえずチャットAIを全社に配った」「現場アプリを入れたが使われていない」というケースです。原因はツールの性能ではなく、どの業務の、どの瞬間に効かせるかが決まっていないことにあります。
今回のケースも、出発点は手書きのメモでした。「依頼がLINEで来る」「現調の写真が整理できていない」「工事前に情報を集め直している」。これを1本の流れとして並べ直すと、どこで情報が止まっているかが目で見えるようになります。
業務の棚卸しの進め方は【2026年】AIの業務効率化、何から行う?失敗しない導入5ステップでも解説しています。
現場を持つ会社で、情報が散らばる3つの瞬間
図を描く前に、課題を3つに絞り込みました。
| 瞬間 | 何が起きているか | 結果として起きる手戻り |
|---|---|---|
| 依頼を受けたとき | 取引先の依頼書、LINEの文面、電話が混在する | 店舗名・依頼内容・型番を人が読み取って転記する |
| 現場調査のとき | 写真はスマホ、メモは紙、案件との結びつきが弱い | 撮り忘れに後から気づき、再訪が必要になる |
| 工事を準備するとき | 日程・写真・部材情報が別々の場所にある | 前日に情報を集め直す。準備漏れが起きる |
共通しているのは、情報が消えているわけではないことです。どこかには必ずあります。問題は、案件という単位でつながっていないことでした。

構想図:依頼受付から工事準備までの6ステップ
整理した流れが次の6ステップです。
| # | ステップ | AIに任せたいこと | 人が担うこと |
|---|---|---|---|
| 01 | 依頼受付・AIで整理 | 依頼書やLINE文面から、店舗名・依頼ID・依頼内容・型番を抽出 | 内容の確認と確定 |
| 02 | 現調日程の確定 | 確定した日時をカレンダーへ登録し、依頼内容を備考に反映 | 日程の調整・決定 |
| 03 | 現場調査・写真撮影 | 撮影項目のチェック、撮り忘れの指摘 | 現地判断、追加撮影 |
| 04 | 写真整理・現調報告 | 写真の分類、型番など写っている情報の読み取り、案件別フォルダへ保存 | 報告内容の確定、担当者への連絡 |
| 05 | 工事準備・日程調整 | 現調結果から必要材料の候補出し、工事日のカレンダー登録 | 材料の最終決定 |
| 06 | 工事前にまとめて確認 | 予定に写真・部材・搬入条件を集約して表示 | 当日の段取り判断 |
01〜02:受付の「読み取りと転記」をなくす
最初の2ステップで狙っているのは、人が文章を読んで項目に書き写す作業の削減です。依頼の形式は取引先ごとに違い、LINEの文面は自由記述です。ここは生成AIが比較的得意な領域にあたります。
ただし、抽出した内容をそのまま確定はしません。店舗名や型番の取り違えは、後工程すべてに響きます。AIが下書きし、人が確定するという形を前提にしています。
03〜04:写真を「案件の情報」に変える
現場での写真は、撮った時点では単なる画像ファイルです。これを案件にひも付け、分類し、写っている型番などを読み取って保存するところまでを自動化できれば、現調報告の作業がそのまま短縮できます。
もう1つ狙っているのが、現調が終わる前の撮り忘れチェックです。再訪が発生すると、移動時間と日程調整の両方が失われます。現場を離れる前に気づける仕組みは、効果が分かりやすい部分です。
05〜06:工事前に「探さない」状態をつくる
最後の2ステップは、準備のための情報集約です。工事日の予定を開けば、現場の写真・必要部材・搬入条件・注意点が一緒に見える。この状態をつくることが、構想全体のゴールになっています。
AI業務効率化・AIツール開発の進め方はAIツール開発でも紹介しています。
設計で一番効いているのは「集約先を2つに絞った」こと
この構想で意図的に決めたのが、情報の集約先を次の2つだけにしたことです。
- Googleカレンダー:日程と、その現場に関する情報
- Googleドライブ:案件別の写真と資料
新しい管理画面や専用システムを作れば、機能は増やせます。しかし現場で使う人にとっては、覚える場所が1つ増えるということでもあります。
| 方針 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 既存ツールに寄せる(今回の選択) | 使い方を覚え直さなくてよい。導入が早い | できることはツールの機能の範囲に収まる |
| 専用システムを作る | 業務にぴったり合わせられる | 定着までの教育コストと開発期間がかかる |
今回のように「まず情報をつなぐ」ことが目的の段階では、すでに全員が開いているものに寄せるほうが現実的だと判断しました。現場の人が新しいアプリを開かなくても、いつものカレンダーを開けば情報がある。この形を優先しています。
構想段階で、まだ決めていない3つの論点
ここは正直に書きます。図はできましたが、決まっていないことが3つあります。
1. LINEをどこまで残すか
取引先や現場からの連絡手段として定着している場合、無理に止めると連絡自体が滞ります。残したうえで内容を自動で取り込むのか、受付だけ別の入口に寄せるのか。運用の実態を見てから決める論点です。
2. Botにどこまで任せるか
自動で返信するのか、人が見てから返すのか。誤った内容を自動返信するリスクと、対応速度のどちらを取るかの判断になります。
3. 自動登録する項目と、人が確認・確定する項目の線引き
ここが最も重要です。線を引かないまま自動化すると、「AIが入れた情報を誰も信用しない」という状態になり、結局二重チェックが発生します。

線引きの基準は、間違えたときに誰が困るかで考えると整理しやすくなります。
| 分類 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 間違えても後から直せる | 写真の分類、メモの整理、フォルダ振り分け | 自動でよい |
| 間違えると後工程が止まる | 店舗名、型番、工事日、必要部材 | AIは下書きまで。人が確定する |
| 社外に出る情報 | 取引先への報告、日程連絡 | 人が確認してから送る |
この構想で見込めること、見込めないこと
誇張せずに書きます。
見込めること
- 依頼内容の読み取りと転記にかかる時間の削減
- 写真整理と現調報告の作業時間の短縮
- 撮り忘れによる再訪の減少
- 工事前に情報を探し直す手間の削減
見込めないこと
- 現調そのものの判断(どの機種が入るか、搬入経路が通るか)は人の仕事のまま
- イレギュラー案件は、むしろ人の判断量が増える
- 導入直後は、運用ルールを整えるぶん一時的に手間が増える
AIを入れれば現場が楽になる、という話ではありません。転記と探し物を減らし、判断に時間を使えるようにする。狙いはそこにあります。
なお、電話受付・電話対応の自動化は、将来の拡張として検討項目に入れていますが、今回の構想には含めていません。まず案件情報がつながる状態をつくってから、受付の入口に手を入れる順番です。
自社で同じ構想図を描く4ステップ
特別なツールは必要ありません。紙とペンで始められます。
- 直近の1案件を、時系列で書き出す。依頼が来てから工事が終わるまで、誰が何をしたかを並べます
- 情報が止まる箇所、探し直す箇所に印をつける。ここが課題です
- 集約先を2つまでに決める。すでに社内で使っているものから選びます
- 自動にしてよい項目と、人が確定する項目の線を引く。間違えたときに誰が困るかで判断します
この4つを1枚にまとめた時点で、「どのツールが要るか」「どこから始めるか」が具体的に見えてきます。ツール選定はそのあとです。
よくある質問
Q. 構想図を作るだけで、何か変わりますか。
A. 図にすること自体が目的ではありませんが、社内で話が噛み合うようになります。「現場が大変」という感覚の話が、「03と04のつなぎ目で情報が止まっている」という具体的な話に変わります。
Q. 全部をいきなり自動化すべきですか。
A. おすすめしません。効果が分かりやすく、間違えても後から直せる範囲(今回の例では写真整理)から始め、動くことを確認してから広げる進め方が現実的です。
Q. 現場の社員が使ってくれるか不安です。
A. 新しく覚えることを増やさない設計が有効です。今回、集約先を既存のカレンダーとドライブに絞ったのも同じ理由です。現場の操作が増える仕組みは、定着しにくい傾向があります。
Q. 既製のサービスでは対応できませんか。
A. 業務が標準的であれば既製品が適しています。今回のように取引先ごとの依頼形式が異なり、既存ツールとの連携が必要な場合は、必要な機能だけを小さく開発するほうが合うことがあります。どちらが良いかは、業務を整理してから比較するのが順番です。
Q. 費用はどれくらいかかりますか。
A. 自動化の範囲と連携先の数によって大きく変わります。構想図の段階でご相談いただければ、範囲ごとの概算をお出しできます。
まとめ:図にしてから、ツールを選ぶ
現場の情報が散らばる問題は、ツールを増やしても解決しません。1案件の情報の流れを1枚にし、集約先を絞り、自動と人の線を引く。この順番で進めることが、使われる仕組みへの近道です。
今回の構想は、まだ実装前です。進んだ段階で、どこが想定どおりで、どこが違ったかもあらためて公開します。
「うちの業務でも同じ図が描けるか知りたい」という段階で構いません。スゴヨクAIでは、業務の棚卸しから設計・実装・定着までを同じチームで支援しています。無料相談、またはお電話(0120-102-106/平日9:00–18:00)からお気軽にご相談ください。
